クリスマスが待ってる…


 最近、帝都に限らず日本全体で「拳腕(ケンワン)グランプリ」が流行っていた。
これは、いろいろな流派の拳法家や格闘家が集い、誰が一番強いかを決めるものである。
ここ、帝撃でもその決勝戦はひとしきり盛り上がりを見せた。

「左竹も、まだまだと思ったけど、マーツが強すぎだな。」

「ええ、ベルナリドが、こうもあっさり負けちゃうなんて…」

「あ〜あ、ウチはフィルヨ応援しとったんやけどなぁ。」

口々にひいきの選手の名が上がる。楽しい時間…
しかし、ある一言がこの雰囲気を一掃した。

「ねぇねぇ、花組の中で誰が一番強いのかなぁ?」

「・・・・・・・・・」

 一瞬にして沈黙があたりを包む。
隊員は皆、何らかの武道なり特技を持っている。
それは、味方として心強いものであったが、
もし、敵として現れた場合、どれほどの驚異となろう。
その有り得べからざることとはいえ、
それが現実のこととなった場合の空恐ろしさに隊員みんなが真剣に悩んでしまったのだ。

「おうおう、なぁ〜に堅っ苦しい顔してやがんだ。お〜もしれぇじゃね〜か!」

「支配人!」

「そうね、私も知りたいわ。トーナメントで試合するなんてどうかしら?」

「か、かえでさんまで。」

「今度のクリスマス公演の主役、そのトーナメントの優勝者ってことでどうだぁ?」

 米田の発言に、にわかに首肯しかねる要因があった。
拳腕グランプリはグラブをはめるとはいえ素手での勝負である。
しかし、隊員はそれぞれ得物の武器がある。
素手での戦闘となればカンナが一番であることは、
コーラを飲んだらゲップをする、というぐらい明かであった。

「へへ、いいぜ。みんな自分の武器を使いなよ。そうこなくっちゃおもしろくないもんな。」

カンナの申し出により、米田の提案通り、
武器携帯可の異種格闘技戦の火蓋が切っておろされようとしていた。



『さ〜て、日本、いや世界初!武器を持っての異種格闘技戦が始まろうとしています。
 この試合はトーナメント形式で、優勝者には、なんと!
 クリスマス公演の主役の座が与えられます。』

『会場はここ!帝劇の中庭からお送りしています。とはいえ、観客は選手のみなさん他、
 劇場関係者だけなんですけど…
 そんなことは気にせず、実況致しますのは、私、榊原由里と、』

『解説の加山雄一です!』

『え〜と、加山さん?加山さんの予想はどういったものでしょう?』

『そうですね。まずAブロックは、さくら・マリア戦と、アイリス・紅蘭戦。
 Bブロックはレニ・すみれ戦、カンナ・織姫戦となるわけですが、
 まあ、マリアの武器は銃ですからね。Aブロックはマリアで決まりでしょう。
 Bはむずかしいですね。ところで織姫くんはどうやって戦うんでしょうか?』

『う〜ん、難しい問題ですね。果たして無法地帯さんはそこまで考えているのでしょうか?』

『誰?』

『はい!もう第一試合が始まりますよ!
 第一試合は真宮寺さくら対マリア・タチバナです。
 解説の加山さんが優勝候補にあげているマリアさんですが…』

『さくらくんが、どこまで食い下がるかが見所でしょう。』


仮設リングの上では、開始ゴングは鳴っていないものの、すでに戦いは始まっていた。

「さくら、負けを認めなさい。あなたに勝ち目はないわ。」

「そんなこと、やってみなければわかりません!」

「さくら・・・手加減はしないわ…」

「私だって…」


 カーーーーーーーーーン

『始まりました!さくらさんは中段の構えのまま、じりじりと間合いを詰めようとしています。
 マリアさんはまだ銃を構えていません。』

『当たり所が悪ければ即死ですからね。マリアも気を使うでしょう。』

『おおっと!遂にマリアさんが銃口をさくらさんに向けました。』


「さくら・・・やはり負けを認めてくれないのね・・・」

「えええええぇぇぇぇいいっっっ!!!!(→↓\P)」


『さくらさん、気合いと共に飛んだ!!!』

 ズギュゥーーーーーーン(↓\→P)

『マリアさん!ついに発砲だ!!
 しかし!さくらさん、当たったように見えたものの
 まだ突っ込んでいくぅぅぅ!!』

「え?確かに今…」

   ガスッ
「当たった…は・・ず・・・」

「安心してください。峰打ちです。」


『マリアさん、当たったと思った相手が無傷であったため、
 動揺し、隙ができたようですが…加山さんこれは?』

『そうですね。主役級キャラの対空系技は、上昇中無敵が基本ですからね。
 きっと、マリアの銃弾も無敵だったためすり抜けたのでしょう。』

『なるほど!そういうことでしたか!
 先ほどの試合の興奮冷めやまぬ状態ですが、第2試合が始まろうとしています!』


「ふふふふふ…こんなこともあろうかと、密かに開発しとった
 “格闘くん”や!これでウチは優勝間違いなしや!」

『紅蘭、怪しげなメカと共に登場ですが、さてあれはどういったものでしょう?』

『う〜ん、見た感じ甲冑のようではありますが、
 ものすごい武器が内蔵されている、と考えるのが妥当でしょうか。』

『そうですか。対するアイリスちゃんは…手にジャンポールを抱いていますが、
 他には何も持っていないようです。』

『アイリスとしては、瞬間移動で攻撃を避けながら相手の疲労を待つ、
 というのが常套手段でしょう。』

『はい!それでは第2試合が始まります!』

 カーーーーーーン!

「ほれほれ、はよう降参っていう方がええで!
 なんせこの“格闘くん”1秒間に16連打可能で
 キックとのコンビネーションも無限のバリエーションがあるさかいな。」

「紅蘭…紅蘭は前に‘人を不幸にする発明なんて発明じゃない’って言ってたよね。
 ‘人を傷つける発明はだめだ’って言ってたよね。
 そんな機械で殴られたら、アイリス、大怪我しちゃうよ・・・
 アイリス不幸になっちゃう・・・」

『おや?紅蘭、その場に崩れ落ちた!』


「うぅぅ、アイリスのいう通りや。ウチが間違うとった…
 ウチはもう少しで取り返しの付かないことをするとこやった…」

『紅蘭、ギブアップのようです!自らリングを降りていきます!!』

『幼いように見えてなかなか、心理戦までものにするとは…
 ‘後生畏るべし’とはこのことでしょう。子供とはいえ、侮れません。』

「聞こえたよぉぉ#!!!アイリス子供じゃないもん!!」

『え?あの、ちょっと・・・うぎゃあああああああ!!!』

     ・
     ・
     ・

『え〜と、加山さんは不慮の事故により、しばらく解説は無理のようです…
 さて、Bブロックの試合が始まろうとしているんですが…
 レニの姿が見えません。  
 え?本当?』

『失礼いたしました。今入った情報によると、レニは試合を放棄したようです。
 レニからのコメントをお伝えします。』

「ボクが戦うのは相手を殺すときだ…すみれを殺したくない…」

『以上です。ちょっとキャラ違ってないですかね。
 それでは織姫さんとカンナさんの試合です。
 織姫さん、素手でリングに上がりました。』

「おいおい、何でも武器持ってきていいんだぜ。」

「あなた、ワタシのこと見くびってマース!
 ご覧なさーい!」

   ババババババババババババ・・・

『し、し、信じられません!!今、確かに織姫さんの指から光線が出ました!!
 どんな仕組みになっているんでしょう?』

「知りたーいデースか〜?簡単なことで〜す!それは…」

『それは?…』

「ワタシが天才だからで〜す!!」

『おおっと!そう来たか!!とにかく、これで試合は開始されそうです。』

  カーーーーーーーン

「一撃で〜す!!え?」

『し、試合開始と同時に、カンナさん織姫さんとの間合いを一気に詰めた!!』

「へっへぇ、遅えよ!
 一百林牌!!!(←/↓\→←/↓\→P)」

「キャアァァァァ・・・」

「理屈はわかんねぇけど、おめぇくっついた敵を攻撃できないもんな。
 ま、赤色はあたいだけで充分さ。」

             ・
             ・
             ・
『余裕で勝利をものにしたカンナさんですが、
 なにやらレフリーのかえでさんに話しています。』

「それじゃあカンナ、このまま引き続き試合をするということね。」

「あぁ、あのサボテンも、はやく出たくってウズウズしてるだろうしよ。」

「だぁれがサボテンですってぇ〜」

「お、来たな。はやくおっ始めようぜ。
 おおっぴらにおめぇをコテンパンにできると思うとウキウキするぜ!」

「あ〜ら、私にはぶっ倒れて私の靴を舐めるデカブツの姿が見えますわ。」

「な、な、な、なんだと〜!」

「まだよ!ゴングが鳴ってから!」

『ゴング前から緊張が頂点に達しています!注目の試合、
 ある意味メインエベントと言えます。
 因縁の対決、宿命の対決に今日決着がつくのでしょうか?』

   カーーーーン

『始まった!!まずカンナさんが中段付き!
 すみれさん長刀の柄で防ぐ!そのまま兜割りか!
 カンナさん上段受けっ、いやそのまま長刀を巻き込むように脇に抱えた!
 右裏拳がすみれさんの顔面に!!おっとしゃがんで避けた。すみれさん足払い!
 カンナさんダウンか!いや片手でバック転だ!少し間合いを空けるぅ。
 今度はすみれさんが仕掛ける!カンナさん回し蹴りで牽制だ!
 すみれさん!カンナさん!すみれ!カンナ!すみっ!カンっ!
 …もはや実況できません!二人の攻防が早すぎて、見えません!!
 実況できません!!いったいリングでは何が起こってるんでしょうか!?』

「うりゃああああああああ!!!」

「ええええぇぇぇぇぇいい!!!」

  ドッギャアアアーーーーーーン!!!

『ものすごい音がしました!おや、二人は動きません。立ったままです!
 どうなったんでしょう?
 おっと、ゆっくりと体が沈んでいきます!二人とも倒れ込んだ!
 ダブルノックアウト!!ダブルノックアウトです!!
 どちらも勝利者とはなりえなかったぁぁぁ!!
  と、いうわけで、次のさくら・アイリス戦で優勝者が決まります!』

「アイリス…負けないもん!」

「さくら、行きます!」


『二人ともリングに上がりました。』

『もはや、勝敗は神のみぞ知るというところでしょう。』

『おや?加山さん、もう大丈夫なんですか?』

『ええ、なんとか。
 しかしまともな試合は先ほどのカンナ・すみれ戦くらいですが…』

『そうですね。事実上の決勝戦、期待がかかります。』

  カーーーーーーーーン

『始まりました!さくらさん今回は下段の構えです。
 アイリスの身長に合わせているのでしょうか?』

「アイリス・・・この技は使いたくなかったけど・・・
 勝つためよ!はあああああああああ・・・・」

『さくらさんの霊力がどんどん上がっているようです!
 周りの空気が震え、実況席にまで伝わっています!』

「破邪剣征・・・
桜花熊苦(おうかくまく)!!!
(↓\→↓\→P+K+G)」

『ああっと!ジャンポールが!
 アイリスは無傷ですがジャンポールが切り刻まれていくぅぅぅぅ!!!』

『恐ろしい技です。相手の大切にしているものを傷つけることで、
 戦意を喪失させるものです…』

「いやああああああああ!!ジャンポールにひどいことしないでぇぇぇぇ!!」

『出るか!アイリスの‘いやボン’が!』

『加山さん、なんですか、いやボンって?』

『文字通りの…おっと、さくらくんいつの間にかアイリスの背後に回ってる!』

「おやすみ…アイリス」

  ガコッ

『なんと、さくらさん、刀の柄でアイリスの後頭部を強打!
 アイリスちゃんはその場に倒れました…』

「優勝者、真宮寺さくら!!」

『今、レフリーのかえでさんにより、高らかに勝者の名前が宣言されました!
 優勝はさくらさんです!!』

『予想外ではありましたが、振り返ってみるとさくらくんの優勝は必然と言えましょう。』

『それは何故ですか?』

『勝利に対する貪欲さですね。その勝利に向ける執念は、花組一だったと言うことです。』

『なるほど。それでは、もう終わりですのでこの辺で。ごきげんよう』


「あぁ、やったわ!あたし優勝したんだわ。クリスマス公演の主役なのよ!
 公演終わったあとの打ち上げで、大神さんと二人で抜け出して、
 教会にお祈りに行くのよ・・・」

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 しかしこの試合がたたって、花組全員体調を崩し、
クリスマス公演は中止になったとさ…

         
おしまい!



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